カーズランド製作の物語

カリフォルニアのディズニーランドに最近行った人、もしくは行きたいなって思ってる人なら絶対知ってるであろう素敵なエリア、カーズランド!

2012年に完成したこのエリア、もちろん普通に楽しんでも最高に面白いけど、このエリアには想像をはるかに超える紆余曲折の物語があったのです。今回はそれのご紹介、もしかしたらこれを知ると、カーズランドがより特別なものに見えて来るかもしれませんよ。

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カリフォルニアには2つのディズニーパークがあります。一つが1955年にウォルトさんが作った「ディズニーランド」、そしてもう一つが2001年に出来た「ディズニー・カリフォルニア・アドベンチャー」で、カーズランドはこちらの方にあります。

このディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーという名前、中々長くて呼びづらいよね。ディズニーに詳しくない友達とかがたまにこのパークの事をアドベンチャーランドって呼んだりして、いや...アドベンチャーランドは他にあるからその名前で呼ぶのはやめて...って心のうちで思っちゃうオタクは僕です。今回の記事では呼び方を英語での略称であるDCAで統一しますね。

 

さて、ディズニーランドの横に新たなパークを作ろうという話が上がったのは1990年代の頃でした。ちょうどその頃、ディズニーはパークの数を一気に増やす計画を立てていました。フロリダのウォルト・ディズニー・ワールドで新たなパークを作ったり、フランスにユーロ・ディズニーランド(現:ディズニーランド・パリ)を作ったり、さらにはワシントンD.C.やカリフォルニアのロングビーチなどにもパークを作る計画がありました。

そんな中で、開業から40年経った後でもパークが一つしかないカリフォルニアのディズニーランドに第二パークを作って、ここを複合型リゾートにしよう!という案が出るのは当然と言えるでしょう。

当時ディズニーランドには巨大な平面駐車場があったので、それを立体駐車場にすればパーク一つ作るぐらいの土地はすでに確保できていました。じゃあそこに何を作るのか。一番簡単なのは既にあるパークをコピーする事です。そうしてフロリダにあったエプコット(Epcot)のコピー、ウェストコット(WestCot)の案が出来上がりました。西(West)にあるエプコットだからウェストコット。分かりやすいね。

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しかしこの案には大きな問題がありました。それは予算がかかりすぎる事。この計画が進んだ1990年代半ばというのはディズニーランド・パリができた直後の事。この記事を読んでくれればすごーく良く分かるんだけど、このパリのパークによってディズニー社はとっても大きな赤字を抱え、しかもそれにより銀行や投資家からの信頼を大きく失ってしまいました。

そうなると、いくら新たなディズニーパークを作ると言ってもあんまりお金は出せなかったのです。ディズニーは安く出来るけど人々の注目を集められる新たなテーマを考えなければいけませんでした。

「ディズニーランドを訪れた客の多くは一日ここで楽しんだ後、すぐどこか別の場所へ行ってしまう。彼らはどこへ向かうのか、もちろんそれはカリフォルニアの他の観光地だ。そしたらさ、ディズニーランドの隣にカリフォルニア観光が一度で楽しめる場所があればみんな別の場所へ行かなくなるんじゃない?」

という、賢いんだがどうなんだか分からないこの理論によってディズニー・カリフォルニア・アドベンチャーは誕生するのです。ビックリだよ本当に。

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ただ一言でカリフォルニアと言ってもその中には色々なものがある。何てったって、カリフォルニア州の面積は日本の面積よりも広いんだから!(カリフォルニア州:423,971 km²、日本:377,914 km²)

そこで広大なカリフォルニアから要素を抜き出し、3つのエリアが出来ました。まずは映画の都、ハリウッドがテーマのハリウッド・ピクチャー・バックロット。ロサンゼルスなどにある海上遊園地がテーマのパラダイス・ピア。そして大自然がテーマのゴールデン・ステート。さらにここにはグランド・カリフォルニアンという高級ホテルも併設され、専用ゲートからパークに入ることが出来ます。

そしてこのDCAの建設費はなんと6億ドルでした。数字だけ見ると普通に金かかってるように見えるけど、ディズニーパークとしてこの建設費はかなり少ない方。だって同じ年に開業した東京ディズニーシーの建設費は3000億円、およそ25億ドルなのだから。 

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さあ開業だ!しかし2001年2月8日、開業したDCAの評判は散々でした。ダメな点を挙げていこう。まず純粋に楽しめるものが少ない。地図を見ただけで分かるこのスカスカ度。それに予算を削りに削ったせいでディズニーお得意のストーリーテリング、つまり物語が存在せず、そこにあったのはテーマパークでは無くただの遊園地だった。

このパークがアメリカの田舎町にあったらもっと評判が良かったのかもしれない。しかしすぐ隣には天下のディズニーランドがあるのだ。同じ入園料を払うのに、美しいビックサンダーマウンテンではなくただの何のひねりもないフリーフォールのマリブーマーに乗る人がいるだろうか。そして夢溢れるファンタジーランドではなく、車で数十分の所にあるハリウッドの焼き直しを選ぶ人がいるだろうか。

開業した2001年、ディズニーランドには1年で1200万人が訪れた中、DCAには500万人しか訪れなかった。開業初年度という稼ぎ時にも関わらずだよ?そしてさらに酷いことに、訪れた人の顧客満足度は驚異の20%を記録した。

このままではいけない。ディズニーは直ちに新たな要素を追加する事に決めます。2001年7月に、フロリダで公演されていたエレクトリカル・パレードを取り寄せたり、2002年に子供向けエリアのバグズ・ランドを作ったりしました。このエリア、虫嫌いの僕からすると悪夢でしか無かった。イッツ・タフ・トゥ・ビー・ア・バグとかマジ無理。

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さらに2004年には人気アトラクション、トワイライトゾーン・タワー・オブ・テラーも開業。けどまぁ、これだけやっても隣のディズニーランドには到底並べないのですよ。地理的には並んでいるにも関わらず。

そして2007年、全てが変わる。ディズニー社は11億ドルのパーク拡張案を発表します。11億ドルだよ?パーク建設費の倍だよ?

これまであったエリアも雰囲気をガラッと変え、さらに新しいエリアも誕生する事になります。そう、この拡張の目玉がカーズランドだったのです!そう、ようやく本題にたどり着きました!

しかーし、ここからカーズランドを語りたいのは山々なのですが、時計をほんの少しだけ戻して、この拡張案でカーズランドが出る前の話をちょっとだけしたい。この画像を見てほしい。

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この不思議な絵。実はこれ、カーズランドの原型の案を描いた絵なんです。

DCAがスカスカなのはもう周知の事実。そして新たなエリアを作るには、すでにあるものとは違うカリフォルニア要素が必要でした。(バグズ・ランドが果たしてカリフォルニアなのかと言われたら怪しいけどね...)

そこで思いついたのが車。カリフォルニアは広いのでほぼ全ての人が車を持ち、家族旅行なんてのは大体が車の旅。つまり車はカリフォルニアを構成する立派な要素の一つなのです。そこでディズニーは、かの有名なルート66を巡る旅を体験できるエリアを考えつきます。その名もカーランド(Car Land)、カーズランドじゃないよ、カーランドだよ。

特にその中のGoofy about Roadtripsというアトラクションは中々惹かれる。1995年の映画「グーフィー・ムービー ホリデーは最高!!」をテーマとした、ドタバタ珍道中を体験できるアトラクションとか絶対楽しいでしょ。

しかしこれらは全く違う形で実現します。なぜかって?だってちょうどこのエリアの構想を練っていた2006年、これ以上ない最適な映画が公開されたんだもの。

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2006年、ピクサー映画「カーズ」が公開されます。なるほど、だから先程までのカーランドのアトラクション案は無くなって、まさしくカーズランドになったんだねー、と思っちゃいそうだけど、そう一筋縄では行かなかったんだよね。

理由その一。カーズという映画は決して興行的には大成功な映画では無かったという事。2018年までに公開されているピクサー製作の20作品の内、カーズは何と16位。もちろんヒットと言える額はあるんだけど、ピクサーとしてはそんなに高いほうじゃないのよね。

いや、ちょっと待ってと。じゃあどうしてそんな16位の作品がシリーズ化されて、カーズ 2だの、カーズ/クロスロードだの、メーターの世界つくり話だの、プレーンズだの、プレーンズ2/ファイアー&レスキューだのが出来たんだ。それはですね、グッズの売れ行きが凄まじかったんですよ。映画の興行成績は全部足して10億ドルとかなのに、グッズの売り上げは100億ドルを超えるという異常値。

当然このカーランドを構想中の時は未来のグッズの売り上げだなんて知らないから、カーズという作品にエリアを丸ごと預けて良いのか不安になるのもしょうがない。

 

理由その二。そもそも当時はまだ映画一つだけに特化したエリアというのがあまり無かった。ディズニー内で一つの映画だけがテーマのエリアは、マーメイドラグーン、アラビアンコースト、先程出てきたバグズ・ランド。そして強いて言えばトゥーンタウン(映画「ロジャーラビット」に出てくる)かな。そう、本当にこれしか無かった。

なぜかと言うと、テーマパークは何年も何十年も残るものなのに、映画は大ヒットしても数年で人々の記憶から消えることが普通だから。だってアラビアンコーストを訪れる人の内、どれだけがアラジンを観た事ある?多分そう多くは無いはず。だから製作者側はそれを見越した上で、別にアラジンを観てなくても雰囲気を味わえて、ジーニーっていうキャラクターさえ何となく理解していれば楽しめるアトラクションを作ったってわけ。

ところが、そのやり方を根本から変える存在が現れます。それがウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター。あれだよ、とにかく凄いやつ。

このエリアはひたすら映画の世界を再現する事にこだわり、映画ファンが供給過多によって倒れるレベルの再現度を達成しました。それはまさしく世界初。というのも、映画を知らない人が完全に置いてきぼりになるっていうデメリットがあるからね。でも完成度さえあれば映画のエリア化は出来ると示したのです。

この計画を知ったディズニーは、「ユニバーサルが映画のエリア化をやるなら僕も...」と思ったのかは分からないけど、ここでようやくカーランドの中にカーズのアトラクションを作るのではなく、カーズランドを作ろうとなったのです。そして見てください、このコンセプトアートの美しさを。

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カーズの映画を再現するとなった時、どこを再現するかというのはもう秒で決まるでしょう。そう、ラジエーター・スプリングスだよ!(てか他に映画に登場した場所無いからね。ピストンカップのレース場ぐらい。)

ただ、どう表現するのかというのは悩ましい所。あの街並みと美しい大自然を再現するのには金だけでなく広大な土地も必要でした。そして思い切ったのは、エリアのほとんどをたった一つのアトラクションに使うと決めた事。もちろん他にもアトラクションはあるんだよ?「メーターのジャンクヤード・ジャンボリー」と「ルイジのローリッキン・ロードスター」という子供向けのアトラクションがあるにはある。いや、もちろん楽しいよ?

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だけど、みんなのお目当てはただ一つ、そう「ラジエーター・スプリングス・レーサー」に決まってるよね!

これがもう凄いのなんの。先ほども言ったように使っている土地が大きいからスケールがデカい。そして乗車時間が長いし、乗っている間に展開がコロコロ変わるから乗り終わった時の満足感が半端ない。それに目の前に現れるマックイーンやメーターの動きは本物さながらだし、乗った人はきっと冒頭で流れるMcQueen and Sallyという曲に恋をするはず。オープンカーで駆け抜けるあのスリルが味わえるし、かと言ってそれは酔いやすい人や小さな子供でも全然耐えられるレベル。(でもあの牛のトラクターは小さい子供にはほんの少し怖いかもね)

もう本当にね、全てが最高なのですよ。

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これは間違いなく2012年時点でディズニーの最高のアトラクションだと感じたし、確かにものすごく攻めていて、なおかつディズニーらしさがふんだんに出ていた。

そして何よりエリアの世界観を完全に映画そのものにしたおかげで今まではアトラクションに乗っている間しか映画の世界観は楽しめなかったのが、乗る前も後も楽しめる。しかもユニバーサルのハリー・ポッターに倣って、売られるグッズや食べ物や飲み物もカーズの世界に合った物を売り出し、ただでさえ売れるカーズのグッズの売り上げをさらに伸ばしたのです。

しかも実際作ってみるとラジエーター・スプリングスの街並みというのは古くからあるルート66の沿線の街の要素がたくさん含まれているし、純粋に見ていて美しいので映画を全然知らなくても楽しめるエリアになりました。

このカーズランドを含めたDCAの11億ドルなプロジェクトにより、見事入園者数はV字回復。開業から10年経ってついに当初の目標であったディズニーランドの良きライバルとなる事が出来たのです。

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ここでディズニーは、きちんと話題性を持ちながら正しく投資出来ていれば、それは安く作るよりもはるかに大きな結果をもたらすという結論にようやくたどり着きます。ディズニーランド・パリの悪夢から始まったコストカットの暗黒期は完全に幕を閉じたのです。(ありがとうボブ・アイガー。お前のせいだぞマイケル・アイズナー。)

そしてカーズランドの成功をきっかけに、ディズニーパークの方向性は大きく変わる事になります。今まではほとんど無かった、一つの映画を元にしたエリアを世界中に作る事になったのです。

ユニバーサルはハリー・ポッターという映画を手に入れましたが、コンテンツの量で言えばディズニーは半端じゃ無い。今のディズニーにはディズニーアニメのアナ雪だったり、ピクサーのトイストーリーだったり、マーベルだったりスターウォーズだったりと最強コンテンツが勢ぞろい。どれもすでに世界のどこかでエリアが出来ているか建設中です。

ディズニーの大型アトラクションはかつて映画の世界を組み込むことを好まず、独自の物語を作ってきました。スペースマウンテンとか、タワー・オブ・テラーとかね。だからこそこんなスリルもあるアトラクションにカーズという映画の世界をここまで上手く組み込むのは至難の技だったでしょう。しかしディズニーはそれを完璧に成し遂げた。それがこのカーズランドであり、この成功例は世界各地に広がってきています。

こんなに素晴らしいエリアが出来るからこそディズニーは素晴らしいのであり、僕はディズニーオタクを辞められないのです。

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(このFINISHという画像には、よくぞこんなに長い記事を読み通してくれましたという気持ちも込めて)