ディズニー・アニマル・キングダムの不思議な歴史

フロリダ、ウォルト・ディズニー・ワールドにある「ディズニー・アニマル・キングダム」ここはディズニーが手がける"動物園"という他とは一風変わった不思議なパークなのです。そんなアニマル・キングダムについて、主に製作の歴史という観点からたっぷりと紹介していこうと思います!

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ウォルト・ディズニー・ワールド(以下WDW)4つ目のパークとして1998年4月22日に開業した、その名の通り動物をテーマとしたアニマル・キングダム、一体なぜこのパークが誕生したのでしょうか。なぜ...うーん、なぜ?

まずWDW内の他のパークを見てみましょう。最初に出来たのが1971年開業のマジック・キングダム。これはカリフォルニアのディズニーランドの複製版に近いパークで、そりゃあ最初に作るにはこれしか無いだろう。うん、納得。

次に出来たのが1982年開業のエプコット。なるほど、元々WDWはエプコットという街を作る計画だったのだからその意志を引き継いだパークを次に持ってくる。超納得だね。

3つ目が1989年開業のディズニー・ハリウッド・スタジオ。そりゃあディズニーだもん、映画のパークは作りたいよね。納得納得。

そして4つ目がそう、動物園!うーん、なぜ?

考えてみればみるほど分からなくなってくるので、これは放っておきましょう。作りたかったんだよ、きっと。

というわけで1990年代、「ディズニー・ワイルドアニマル・キングダム」の建設が発表されました。(Wild Animalは野生動物の意味)

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そしてこのパークには、今後のディズニーをも変える革新的なアイデアが沢山盛り込まれていたのです。どうしてかって?だって、動物園なんていうのは世界中どこにでもあるから。わざわざお客さんにフロリダという場所まで来させて、その上でマジック・キングダムとほぼ同じ料金を取らせるには普通の動物園じゃ絶対無理。もっとディズニーらしい革新的なものが必要でした。

そこで登場するのがこの方、イマジニアのジョー・ロードさんです。

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彼は1980年にディズニーに入社し、最初は下っ端なデザイナーとしてディズニーランドやエプコット内の施設のデザインやメンテナンスを担当していました。しかし1989年に、WDW内にあるショッピングエリア「プレジャー・アイランド」(現:ディズニー・スプリングス)にレストランを作ることを任せられると、ここで本領を発揮します。

彼は「アドベンチャラーズ・クラブ」という1930年代の冒険者が集う会員制クラブをイメージしたレストランを作り上げました。独特な世界観と細かく練られた物語、そしてそれらを結びつける繊細かつ美しいデザイン。多くのディズニーファンがここに魅せられカルト的な人気となり、2008年に閉店が決まった際には反対運動が起きたほど。アトラクションならともかく一つのレストランの閉店で反対運動が起きるってすごくない?

そうして実力を見出されたロード氏はアニマル・キングダム建設の中心人物として動くことになります。彼が得意とするのは徹底的に作り上げられた世界観。そして元となる風景があるのなら、それを忠実に再現すること。これこそが普通の動物園とアニマル・キングダムを大きく分けるポイントです。

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さらに動物園との差別化として、普通の動物園では絶対に置けない動物、すなわち恐竜やユニコーン、竜など現実には存在しない動物を展示する事となりました。幸いディズニーは機械で動物を作る事に関しては世界最高峰の技術を持っているので、普通の動物と機械の動物を横に並べる事だって可能でした。

だがしかし!思いもよらない事により、この計画は大きく形を変える事となります。それが1992年のディズニーランド・パリ開園。激しくお金をつぎ込んだこのパークは、思ったほどの売り上げが出ずに大赤字となってしまいました。それが原因でディズニーは多額の借金を抱え、その影響で(ディズニー直営でない東京ディズニーリゾートを除いた)全てのパークで予算を削減しなければいけなくなってしまいました。

という事でアニマル・キングダムと普通の動物園を区別化するはずの予算が大幅に消え、特にこのBeastly Kingdomという空想上の動物が登場するエリアの案は丸ごと消えてしまいました。この絵を見る限り、とっても素敵そうなエリアなのにねぇ。

このエリア内には新パークの目玉となるはずだった大型アトラクションが何個か予定されていたものの、結局完成したのはキャラクターとのグリーティング施設がわずかにあるキャンプ・ミニー=ミッキーという圧倒的下位互換。このエリアは、あくまで新たな拡張のための一時的な施設として作られたものの、ここが置き換わるまでには20年かかったのよね。

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こうして予算が消えた中で生き残ったアトラクションはごくわずかでした。目玉のアトラクションは結局、車に乗って動物を見る「キリマンジャロ・サファリ」というもの。まあごくごく普通なサファリパークのアトラクションで、そりゃあ楽しいけど...ねぇ?というテンション。

他には、外の景色がきれいに見られるけど見える景色は全部バックヤードという不思議な列車があってそれに乗ったら動物ふれあいコーナーみたいなのに行けたりするやつ。あとかろうじてのディズニー要素としてライオン・キングやポカホンタスのショーとかグリーティングがありました。

あと、インディ・ジョーンズのライドシステムを転用した恐竜の時代にタイムスリップする「ダイナソー」っていうアトラクションがあって、これはなかなか楽しいのよ。演出がかっこよくて研究所風の建物とか恐竜のオーディオアニマトロニクスが素敵なんだけどさ。ずっと暗い中を進むから結構怖くて、「ジュラシックパーク ザ・ライド」の終盤の怖い研究所エリアがずっと続くみたいな雰囲気で、終わるとなんだか疲れちゃうっていう。

そして映画バグズ・ライフが基の3D映像シアタータイプの「イッツ・タフ・トゥ・ビー・ア・バグ」という害悪アトラクション。虫嫌いにとっては、あれ本当に見る拷問でしかないし、あれに20年間に渡って会場が埋まるほどの人が観に行ってるのが本気で理解できない。

とにかく!アトラクションの面では、まだまだWDWの他の3つのディズニーパークに並ぶには厳しいところがありました。しかし先ほど紹介したジョー・ロードさんはとても良い仕事をしていました。

彼が行ったのは、それぞれのエリアに独自の物語を組み込んだ事。私たちが住む街にあるような歴史と同じものをテーマパークのエリアにも入れようとしたのです。それらはバックグラウンドストーリー(BGS)と呼ばれ、決してその物語は前面に出てくることは無いけど、エリアを詳しく見てみるとそこにある街並みや小物は全てその物語に沿ったものになっています。

例えば「アフリカ」というエリアでは、ただのアフリカっぽい風景ではなく、Harambe(ハランベ)という架空のアフリカの街を考え出し、その街の細かな物語を作りました。そしてエリア内の全てのアトラクション、ショップ、レストラン、そしてトイレに至るまでがその物語に沿って作られています。

もちろんそれを知らなければ、アフリカ風の街並みと何の区別もつかないでしょう。だってそれこそが、バックグラウンド、すなわち背景のする仕事だから。それこそバックグラウンドミュージック(BGM)と同じです。おしゃれなカフェで流れてる音楽で何が流れてるのかは分からないけど確実に雰囲気は良くなるよね。

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ディズニーパークはその最初期からエリアの世界観にこだわってきましたが、その物語をエリア全体で深く作り上げるというのはこの頃、1990年代からのように思えます。個人的には、アトラクションだけでなくエリアを跨いだ大規模な物語作りはディズニーランド・パリのフロンティアランドが最初だと思ってる。

そしてその流れは続いていき、2001年の東京ディズニーシーという世界一BGSにこだわったパークが出来たんだと思う。ディズニーシーの建設自体にはジョー・ロードさんはそこまで深く関わっていませんが、2006年の東京版タワー・オブ・テラーにはとても深く関わっており、相変わらずゴッリゴリの物語に仕上げられています。はぁ、カリフォルニア・アドベンチャーもこの流れを汲んでたら歴史は大きく変わっていたんだろうなあ。

まあ、そんなこんなで建設が進んでいくと大きな敵が現れます。複数の動物愛護団体が、ディズニーの動物園建設計画に対して反対活動を始めたのです。その中でもPETAという、動物由来の衣服を着るぐらいなら裸の方がいい!と裸で街を練り歩くようなちょっとアレな団体は、WDWに行かないよういわゆる不買活動を呼びかけたり、開業日にデモを行うなど、徹底的にディズニーを妨害します。そこでディズニーはどのような対応を取ったのでしょうか。そう、徹底的に無視です。

だってディズニーは別に何も悪いことはしてないんだもん。動物園なんて世界中どこにでもあるし、敷地が広いのでほとんどの動物は狭い空間に閉じ込められていたりもしない。もちろん法律も破ってないし、動物に配慮して日が沈む頃にはパークは閉園していました。(アバターエリア開業以降は夜も営業)

ただ確かに言われてみれば、他の3つのパークで毎日ドカドカ打ち上げられる花火の音がバッチリ聞こえるから、それが動物たちの健康に関わるっていうのはあるかも。でもそれぐらいだよ、他の動物園との違いなんて。

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さて、そしたら開園後はどうなったかと言うと、まあボチボチって感じ?だって動物園が嫌いな人はそういないから、WDWに長期滞在するなら行ってみよっかってなるよね。だから動物園としては大成功なんだけど、ディズニーパークとして見るとやはり他のパークに見劣りする部分はあったと。

何せアトラクションが少なすぎる。一日遊ぶには乗り物が少なすぎて、数少ないアトラクションはどこも長蛇の列になってしまい、ただの移動用の船にも長い列が出来ててせっかく並んだ人が乗ってがっかり...なんてことも。なので開園した最初10年ほどはアトラクションを増やすことが何よりもの重要課題でした。

というわけで、まず1999年に誕生したのが、急流下りが体験出来る「カリ・リバー・ラピッド」というもの。ただ同様のアトラクションがカリフォルニアにもあって「グリズリー・リバーラン」っていうんだけど、そっちの方が圧倒的に豪華なので可能ならフロリダ版を先に乗ってみたかった。まあしょうがないね、β版だから。

さらには2002年に子供向けの恐竜エリア「ダイノランドUSA」の拡張などを行いました。他のエリアは小さい子向けのアトラクションが全然無いから、家族連れが全てこのエリアに凝縮されてて中々不思議な空間。

さらにアトラクションではないけど、2001年にパークの近くに「アニマル・キングダム・ロッジ」というホテル(パーク併設ではない)が誕生しました。このホテルはアフリカのサバンナの風景を再現したゴージャスなホテルで、何よりすごいのは全ての部屋から動物たちが見れること!朝起きてベランダに行き外を見ると、そこではキリンやシマウマがウロウロしてるなんて体験が出来るんですよ。そう、ここはまさにアフリカ!マジック・キングダムやエプコットにバス一本で行けちゃうアフリカ!

と、このように開園してからも新しい体験が次々と増えていったのです。そして2006年にはアニマル・キングダムに足りなかった最高な目玉アトラクションがついに登場します。それこそが、エクスペディション・エベレスト!

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舞台はヒマラヤの山々。イエティが出るという伝説がある山に入り込むと、そこでは信じられないことが起きていました。なんとレールが壊されていたのです!ゲストを乗せた車両はそこから後ろへ戻り、山から急落下。イエティから逃げ惑うのでした。

ジェットコースターに乗って山の中を走り抜けると伝説上の生き物に出会う、という話自体はカリフォルニアのディズニーランドにある1959年開業の「マッターホルン・ボブスレー」と一緒。このアトラクションはそこから約50年の時を超え、大きく進化したジェットコースターなのです。これを作り上げるのに使用した鉄は5000トン、コンクリートは10000トン、資金は1億ドルと、世界最高額のジェットコースターとしてギネス登録もされています。

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このアトラクション建設にもジョー・ロードさんが関わっており、当然作るにあたって最初にしたのは実際にヒマラヤに行ってイエティの伝説を調べること。すごくない?イエティの話を聞かれたそこの住民は、きっとその人たちは歴史学者か何かなのかなって思うでしょ。でも違うんだよ、彼らはただジェットコースターを作ろうとしてるだけなんだよ?

おかげで乗り物の待ち列(キューライン)は、彼らイマジニアがヒマラヤ周辺の村で集めた写真や8000個もの小物が飾ってある博物館になっています。だからこの博物館は本当に博物館として機能してるってわけ。

そしてもちろんジェットコースター自体もすごくて、だって途中でレールが途切れてて後ろへ戻るんだよ!?すごくね!?僕はこれに乗りに行った時は、当然レールが途切れてるという事を下調べの時に知った状態で乗りにいったんだけど、一緒に行った下調べはゼロ、完全人任せの同行者はその事を知らずに、乗った時に初めてその事を知るという超絶うらやましい体験をしてます。はぁ、いいなぁ。

ちなみにこのアトラクションは世界のディズニーパークの中で一番高い60.6メートルです。ディズニーパークは常に航空法と戦っていて、一定の高さを超えると赤い航空誘導灯を付けなければならず、ディズニーとしてはそれだけは避けたいんですね。ただその規定の高さっていうのが日本だと60メートルなんだけど、アメリカだと200フィート(60.96メートル)だからアメリカの方が若干高く造れるという。ちなみに東京ディズニーリゾート内で一番高いのはタワー・オブ・テラーの59メートルです。誤差だね。

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このエクスペディション・エベレストの豪華さからも分かる通り、もうこの時代のディズニーはとっても裕福になってたくさんの資金を突っ込めるようになっていました。なのでここでようやく、かつて開園時に出来るはずだった空想上の動物が登場するエリアを造り、一時的なエリアのはずだったキャンプ・ミニー=ミッキーを進化させようと決意したのです。ようやく。ただし当初の計画とは大きく形を変えて。

2011年、ディズニーはアニマル・キングダムに映画「アバター」をテーマとしたエリアを作る事を発表します。アバターは2009年のSF映画で、公開されると瞬く間に大ヒットとなり歴代興行収入ランキングでは堂々の一位を記録しました。

しかし数年もするとそのブームは過ぎ去り、今ではおそらくほとんどの人が映画に登場したキャラクターの名前を一人もあげられないでしょう。理由としてはシリーズものでは無かった(一応作るつもりではいるらしいけど)のと、子供受けが悪かった事だと思う。公開当時僕は小学生で、最初に観た時の感想は「長くない?」だったからね。100分程度のアニメばかり観てた子に3時間近い映画は中々キツいものがあったから。

果たしてブームが過ぎ去る事をディズニーは何となく分かっていたのか、それとも予期せずに勢いだけで作ると決めちゃったのかは分からない。けどその流れを見たディズニーは、当初の人々の予想とはだいぶ離れたエリアを造る事にしました。それはキャラクターや物語に頼らず、あの美しい風景だけを取り出した世界でした。

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私たちゲストが訪れるのは当然映画の舞台となった衛星パンドラ。しかし時代設定は映画の数十年後。これだけで映画に登場したキャラクターはほぼ登場しない事が分かります。そしてアバターがヒットした最大の要因と言われているのが映画館で3Dで観た美しい風景。ジェームズ・キャメロン監督がタイタニックで稼いだ金を全部突っ込んだだけあって超絶細かく作り込まれた風景を再現した事を前面に押し出す事で、映画を観たことがあってもなくても同じように楽しめるのです。

このアバターエリア、「パンドラ - ザ・ワールド・オブ・アバター」に行った後、割とすぐにこのブログで感想を書いてました。これを読み返すと、何だかアトラクションの感想の所だけやけに語彙力低いなって。

でもあれはしょうがない。このアバターエリアの「フライト・オブ・パッセージ」は、本当に説明できないほどの感動を味わえる最高アトラクションなんですよ。ユニバーサルがハリー・ポッターを出してきた時に、作品としての力では確実に負けるアバターを使って、技術力と演出だけでここまで持ち上げてきたのは驚異的だって。だってハリー・ポッターのエリアは小説や映画を知っている前提で作っているけど、このアバターエリアは映画を知らない前提で作られてるからね。「あばたー?あの顔が青い人たちの話?」ぐらいの理解度でも最高に楽しめる。

だから正直、このエリアはアバターである必要があったのか?という疑問は残る。だってアバターはディズニー映画じゃないから製作元のライトストームと20世紀フォックスに多額の原作料を払い、グッズや食べ物の売上の一部も渡し、それでいて作品を知らなくても大丈夫なエリアを作るのかという。しかも権利関係が複雑だからグッズもディズニーキャラと絡めたものは作れないし...。

とかいう疑問が出来たときにはあったんだけど、その後ディズニーが20世紀フォックスを買収しちゃったんでこの議論は全部解決。はいはい、アバターはもうこれからディズニー映画ですおめでとうございます。恐ろしいよね、スター・ウォーズとかインディ・ジョーンズとかトイ・ストーリーとか、アトラクションが出来た時はディズニーが作ってる映画じゃなかったはずのものが、いつの間にディズニー映画になってるんだよ?

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そしてこの写真を見ると分かる通り、このエリア建設にもジョー・ロードさんが関わっています。(その隣にいるのはトム・スタッグスさんとジェームズ・キャメロン監督)

こうやってアニマル・キングダムの歴史を見てみると、至る所にジョー・ロードさんがいるっていう。すごいよね。

ちなみに正確な日時は忘れたけど、この頃(2016だか2017らへん)からアニマル・キングダムは夕方で閉園していたのが夜まで営業するようになり、それに合わせてリバー・オブ・ライトという夜のショーが2017年から始まりました。ただ動物が近くにいる関係上、花火や炎など他のパークではやってる派手な演出が使えません。またPETAと大げんかになっちゃうからね。だから「ハッピリー・エバー・アフター」や「ファンタズミック!」と比べると見劣りしちゃうというか、眠くなるというか。

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というわけで、開園時に予算の都合で削られた要素は20年かけてようやく取り戻したように感じます。しかし、「ディズニーランドは永遠に完成しない」ので、きっとアニマル・キングダムもこれからまた進化していくでしょう。今のところはWDWの他のパークが忙しいので特に大きな予定はないんだけどね。

なので僕は新たなビッグニュースを心待ちにしながら、今日も口癖のようにフライト・オブ・パッセージすごかったなぁって言い続けるのです。